「あれ、なにか悩みでもあるのかな?」
自宅で軽い晩酌をしていると、華子がニヤニヤ話しかける。
「なにもないよ」
「そんなことないでしょ?」
「なにもないよって」
華子はいたずらをこれからしようとする小悪魔の顔になってのぞき込んだ。
「だってそれ焼酎でしょ?直稀が焼酎飲んでるときは悩み事があるとき」
「へー」
無関心を装ってみたが、どうやらバレているようだ。
「ちなみにビール飲んでるときは仕事でイヤなことがあったとき。でも悩んでないときね」
言われてみればそんな気もする。華子の洞察力は恐ろしい。
「ほら、なんの悩みか言いなさいよ」
「悩んでなんかないよ」
本当は悩んでないこともないが、華子に言ったところで解決しないことが分かっている。うっかりしゃべてって近所にウワサされても困る。
「もー、せっかく相談に乗ってあげようと思ったのにー」
「ああ、悪いな」
伴沢は気になっていた。
(本当に2歳の女児が存在するのか?)
そもそも存在しなかった?それともすでに死んでる?
母親は一体どこに?
「ほら、やっぱり悩んでるんじゃない?」
「悩んでないよ」
「顔に書いてあるよ」
そんな悩み顔してたのか・・・。
「華子さ・・・」
「え、なに?」
なにかうれしそう・・・。
「オレが75歳で子どもが2才だったら・・・育てられるかな?」
華子はみるみる不機嫌そうな顔になってきた。
「それって、その子は私の子じゃないってことでしょ?そんなの無理だよ、産めないもん!」
・・・しまった、言うんじゃなかった・・・。
翌朝。
朝になってもすこぶる機嫌の悪い妻を置いての出勤。
すると江口が「伴沢君」
あれ以来、江口とはまともに会話をしていない。
課長と2,3週間会話しなくても成り立つ職場というのもどうかと思うが。
「昨日、鎌田君に『マスコミに売るぞ』と言って脅したそうじゃないか」
鎌田の野郎、江口にチクったのか・・・。
そういえば、江口と鎌田は児童課で一緒だったな。
「よくないなぁ。そんなことを公務員がしていいと思っているのか?」
すっかりおとなしくなったと思っていたのに、相手の弱みを握って『やられたらやりかえす!』ってヤツか・・・。おもしろい!
「『脅す』とは人聞きが悪いですね。鎌田にはヤバい案件かもしれないから注意を促したまでですよ。それとも、新聞記者に聞かれて困ることでもあるんですか?課長」
「ほら、守秘義務ってやつがあるだろう」
「知られたら悪いことがあるってことですか?」
「う・・・」
何か知っているな、コイツ。
「マスコミ対応は管理職の仕事でしたよね」
「・・・何が言いたい?」
「気を付けてくださいね、課長。隠ぺいしたことがバレるのが一番ヤバいんですよ」
江口の目がわずかに泳いでいるように見える。
「・・・ま、変な気を起こさぬようにな、伴沢君」
伴沢は江口が言い終わる前に席に戻ろうとした。
(あの様子だと、なにか知っているかも・・・それにしても、オレにクギを刺そうとでもしたんだろうが、墓穴掘ったな・・・。)
江口のポンコツぶりに呆れる伴沢。
(つづく)
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