むらた部長のマネジメント実践塾&公務員ドラマ「伴沢直稀」

ブログランキング1位獲得!【公務員ドラマ・伴沢直稀】&異色のキャリアでマネジメントを語ります

第3話 75歳の父親③「不正受給」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

 初めての方は第1話①からお読みください

  

牧は水田の住民票を受け取ると、慣れた手つきでアタッシュケースに入れて「どうも」と言って立ち去る。

 

その姿を見た伴沢は、どこか見覚えがあるような気がした。

こういうことは市川がよく覚えていそうなのだが、先日、突然発表された異動で支所に飛ばされてしまった。表向きは支所の産休予定職員の代替ということだが、明らかにケーキを食って黙っていたことの責任を取らされたようだ。

市川は運転免許証を持っていないので『暗黙の了解』で自転車で通える範囲ということになっていたが、市川の自宅からは10キロ以上離れた場所の北部支所への異動。市川は相当、江口へ文句を言っていたが、江口は聞き耳持たなかった。

 

(課長もやるときはやるよな・・・)

 

市川がいなくなった住民課には「超」がつくベテランはいない。

 

片っ端から職員に聞いてみたが、意外と牧のことを覚えていたのは小澤だった。

 

 

「あのあやしいおっさんなら良く来ますよ。フィリピン絡みばっかりっすけどね」

 

日本人と外国人の婚姻は、両国の法律が関係してくるのでとにかくややこしい。

日本人同士の婚姻届であれば必要書類は本人確認と戸籍謄本ぐらいのものだが、外国人が絡むと出生証明書やら日本語訳やらを用意しなければならないが、牧が持ってくる婚姻届はほぼ完ぺきにそろっている、と言う。

 

「フィリピンのブローカーか何かか?」

「さー?」

さすが小澤。仕事に関係のない話題には全く無関心。

 

「水田まりの出生は受けてないのか?」

「みずたまり?」

「みずた・まり」

「子どもの名前ですか?そんなのいちいち覚えてないっス」

・・・聞くだけ無駄だな・・・。伴沢は悟る。

 

警戒するに越したことはないだろう。万が一、「役所が児童手当の不正受給を見逃していた」なんてことになれば、タダでは済まない。

 

とりあえず、すぐに手に入る情報・・・つまり、住民票と戸籍はもう一度確認しておこう。

 

伴沢は、『水田一郎』でもう一度検索をかける。

 

まずは住民票。

 

一郎はフィリピンから国外転入。まりの住民登録の原因は出生。そして、まりの母親は一度も住民登録なし。

 

「よくこんな住民登録、認めたな」思わず独り言。

認めるもなにも、住民登録は届出制。ただ、もうすこし事情聴取ぐらいできないのか?

 

そして、戸籍。

 

「ちょっと・・・これは」

 

一郎は何度も転籍を繰り返していた。大和田市にある戸籍しか見ることができないが、少なくとも6回は転籍している。

さらに離婚も5回。最初は日本人と結婚しているが3年で離婚。そのあとはフィリピン人と結婚・離婚を繰り返している。

 

「戸籍担当者泣かせ、だな」

 

家族関係も複雑。最初の妻との間に子どもが一人。その後、最初のフィリピン人妻との間に一人。他に縁組した養子が3人。うち二人は離縁。そして、認知した子、まり。

最初の子は50代。まりとの年の差を考えると孫でも不思議ではないが・・・兄弟ということになる。

 

「こりゃ、相続は揉めるな・・・」

 

伴沢もここまで複雑な戸籍はあまり見たことがなかった。

 

 

 

「と言われても、なあ」

児童課児童手当担当にも伴沢の同期がいる。

鎌田は185センチの高身長。話し方もおだやかで一見ナイスガイに見えるが、仕事は目の前のことを淡々とこなすタイプ。そして、厄介な仕事は他人に振るのが得意技だ。

こちらも小澤とは違った意味で伴沢とは異なるタイプ。

 

「おかしいと思わないか?75歳のじいさんが2歳児を一人で育てられると思うか?」

「まあ、ダメという証拠もないんだろ?」

 

伴沢は、児童手当の担当が鎌田ということを思い出して、一筋縄ではいかないことは覚悟していたが、ここまで危機感がないとは思わなかった。

 

「手当もらってるはずのじいさんが、『ガキは知らない』って言ったたんだぞ。ヤバいと思わないか?」

「ヤバいかどうかは分からないけど、証拠も無いんだから動きようもないだろ」

「本当に子の監護をしているか、とか、調べることがあるだろ?」

「・・・ま、伴沢の言う通りヤバいヤツかもしれないが、オレには関係ない。どうしてもと言うならオレが異動した後にやってくれないか」

 

伴沢はあきれた。ここまで保身に走るヤツがのうのうと同じ職場にいるとは・・・。

 

「わかったよ」

「悪いな、伴沢。今は忙しいんだ」

・・・忙しければ許されると思うなよ。

 

「じゃあ、知り合いの新聞記者にでも話してくるわ。・・・こっちこそ、忙しいとこ悪かったな」

と立ち去ろうとする伴沢を血相変えて止める鎌田。

 

「・・・ちょっと、それはやめてくれ」

 

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(つづく)

 

 

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