ヘッドハンティングされた元公務員・むらた部長の「おはよう!諸君!!」

ブログランキング1位獲得!【公務員ドラマ・伴沢直稀】&異色のキャリアでマネジメントを語ります

第3話 75歳の父親①「知らないガキが載っている」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

 初めての方は第1話①からお読みください

  

「係長、この住民票、発行してもいいですか?」

丸井が困った様子で話しかけてきた。

 

カウンターの向こうでは70は超えていそうな男が何か喚き散らしている。

活舌が悪く聞き取れないが、「早くしろ」と言いたいらしい。

 

生活感あふれるヨレヨレのシャツ。

無精髭。清潔感はない。

少し背中は曲がっているが、とにかく力が余っているという感じ。

やっかいな客であることは間違いなさそうだ。

 

丸井が手にしている住民票。

75歳の男性が「世帯主」

2歳の女児が「子」

二人だけの世帯。

 

 

 

「あのじいさんが2歳児を育ててるのか?」

伴沢は思わずつぶやいた。

2歳児を一人で育てている印象は全くない。

 

「渡そうとしたら『知らないガキが載ってる』って言うんです」

「知らない?」

またも思わずつぶやく。

自分の住民票に2歳児がいて、『知らない』はないだろう。

 

住民票の子という表記は必ずしも実子とは限らない。養子の場合もあるが・・・。

本人が知らないということはまず考えられない。

 

カウンターでじいさんが喚き散らしているので、すこぶる雰囲気が悪い。

周りの来庁者や職員も、触らぬ神に祟りなし。とにかく近づくな、というところだろう。

・・・早く帰ってもらった方がいいのだが。

 

「個人の住民票じゃだめなの?」

伴沢は丸井に確かめる。

「世帯全員じゃないとダメだそうです」

本人のみを記載することはできるが、そうすると『これは世帯全員の住民票の写し』とは表記されない。

 

「まあ、話を聞いてみるか」

 

「水田さん」

住民票の情報で、このじいさんが「水田一郎」であることは分かる。丸井が本人確認をしているので余程のことがない限り間違いはない。

 

「あんちゃん、早くしてくれよ」

住民課のカウンターで職員に丁寧語で話さない人間は要注意。

「このままお渡しすることになりますが、よろしいですか?」

 

「いいわけないだろ。そんなガキ知らん」

「水田さんの子供ではないのですね。養子とか・・・」

「そんなもの知らん」

 

『知らん』の一点張り。ボケている可能性もないこともないが・・・。

 

「経過を調べることもできますが、時間がかかります」

調べる、と言っても戸籍を見るぐらい。幸い、本籍は大和田市だ。

 

「どのくらいかかる?」

「やってみないと分かりませんが・・・」

 

「そんなんじゃ困るよ、勝手に市役所がオレの住民票にガキを入れたんだから、さっさと消してくれよ」

・・・そりゃ無茶だ。

 

「今すぐ、と言われるとこのままお出しするしかありません」

「何だテメエ!」

 

水田は伴沢の胸座を掴もうとするが、伴沢はひらりとかわした。

 

「小澤、警備員呼んで!」

「え?オレっすか?」

「早くしろ」

小澤はあわてて警備員室に電話する。

 

暴力の気配を感じたらすぐに警備員を呼ぶ。これが大和田市のルール。

2年前に税務課の職員が滞納者に殴られてから、このルールが採用されている。

 

水田は興奮してカウンターを叩き、大声をあげているが、やっぱり何を言っているか聞き取れない。

「水田さん、落ち着いてください」

 

ほどなく、警備員がやってくる。その姿をみた水田は少し落ち着いたようだ。

 

「心当たりがないとおっしゃるなら調べます。すぐに分かるかどうかは調べてみないとわかりません」

「・・・なるべく早くしてくれ」

「資料を取り寄せますので、明日以降になりますが」

「・・・ったく、もっと早くしろ」

言葉とは裏腹に、仕方がないという表情を浮かべる。

 

住民票の請求用紙に書かれた連絡先を確認する。

固定電話の番号のようだが・・・字が汚くて読めない。

「連絡先は×××-××××ですか?」

「そうだ」

なんとか合っていたようだ。

 

 

 

 

 

「係長、どこから調べるんですか?」

「まあ、最初は戸籍を当たるしかないかな、『子』になっているのに『知らない』ってのはふつうはありえないからな」

2歳の父親が75歳っていうのもレアケースだが、ありえないこともない。

ただ、あの様子では2歳児と暮らしてはなさそうだ。

 

 

 

まずは戸籍。

丸井が操作するパソコンを後ろから見つめる伴沢。

「・・・そうきたか」

 

戸籍には二人が載っている。

 筆頭者 水田一郎

 長 女 まり

 

「実子ですね」

75歳にして2歳児の父親か・・・。

 

そして、まりの母欄には・・・

「ナガタ・アンジェラ・メンドーサ?」

「国籍はフィリピンだな」

 

(つづく)

 

 

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