立会外分売が多めの投資情報と雑感と雑談

日本株の分売情報が多め、あとは米国株と政治の話や雑感【旧・むらた部長の「おはよう!諸君!」~投資とマネジメント】

第2話 天赦日(てんしゃにち)に消えた婚姻届⑧「タイミング」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

 初めての方は第1話①からお読みください

 

翌日。

 

仲が良くても顔を見たくないタイミングというものがある。

そして、そういうタイミングに限って、その相手が現れる。

 

「伴沢君、元気?」

 

聞き慣れた声の主は優子。今、最も顔を見たくない相手の一人だ。

「はっ・・・ど、どうした」

考えごとをしていて不意を突かれた伴沢は、声が裏返ってしまった。

 

「風邪でも引いたの?」

「いや、そんなことはないよ、ああああああ、のどの調子が・・・」

「仕事中にぼーっとしてるからでしょ?」

ぼーっとしてるんじゃなくて、お前のことを考えてたんだぞ!と言い返したいが、とても言えない。

 

「いや、ちょっと考え事・・・何しに来た?」

「公用請求の住民票を取りに来た。なんか最近忙しくてね~。『攻める農業』なんて言って農業のブランド化をしろってうるさいんだよね」

農業のブランド化と住民票がどう関係するのかよく分からないが、とにかく忙しそうだ。

 

「内田さんとこも大変なんだな」

入庁したては、『優子』と呼んでいたが、結婚してからは、名字で呼ぶことにした。

呼び方を変えたときは、『優子でいいよぉ』なんて言われたが、伴沢にもいろいろと思うところもあって、気が付いたら定着していた。

 

「ところでさ・・・、ちょっと聞いて欲しいんだけど」

伴沢、嫌な予感。

 

 

 

 

 

「あー、その件でしたら市役所は関係ありません!」

不機嫌そうに電話で返事をしている小澤。

小澤にはめずらしくもなんともない光景。

 

「ですから、婚姻届は返しちゃったんです。だから市役所は関係ないんです!」

語気が強まる。早く電話を切りたいという負のオーラが周りにハッキリわかる。

 

「え、伴沢ですか?」

小澤の目には女性と話をしている伴沢の姿が見えている。

 

「伴沢は打ち合わせ中です。え?折り返しですか?・・・忙しいんでまたかけてもらえませんか?」

 

 

 

 

「最近、旦那の様子がおかしいんだよねー」

伴沢、ビクッ。

「どうしたの?」

「あ、いや、・・・どんな様子?」

これはヤバそうだな・・・。

 

「家の中でもずーっと上の空というか・・・。話しかけてもちゃんと聞いてないみたいで」

「また合コンのことでも考えてるんじゃないか?」

「合コンとか浮気だったらなんとなーく分かるんだけど、ちょっと違うんだよね」

妻に内緒で別の女性と婚姻届を出したと知られたら、タダではすまないからな・・・。

 

「悩み事でもあるんじゃないかな?」

「アイツに悩み事!?」

「見かけによらず繊細かもしれないし・・・。そっとしておくのが一番じゃないかな?」

・・・早く終わってくれ・・・。

「悩むようなタイプじゃないけどな・・・」

「男っていうのは、意外と繊細なんだよ」

「そうなのかな・・・?」

「とにかく、そういう時はそうっと見守るのが一番」

「わかった、ありがと!」

背中をポンと叩く優子。

伴沢は変な汗をかいていた。

 

 

 

 

「えーと、伴沢ですね。少々お待ちください」

丸井は、伴沢を目で探す。

 

「係長。電話です。荒木さんって女性からです」

(今度はこっちか)

神経がすり減りすぎて、頭がおかしくなりそうだ。

伴沢は大きく深呼吸。

 

「お待たせしました、伴沢です」

「荒木です。ちょっとお聞きしたいのですが?」

「・・・どうぞ」

「彼の住所を調べたいのですが・・・」

「住所を調べる?」

市役所では住所を調べるということはできない。

 

「住民課で教えてくれませんか?」

「こちらでは住所を教えるということはできないんです。住民票を取ってもらうには相手の正確な住所と名前、住民票を請求する正当な理由が必要です」

ここはハッキリ言うしかない。

「住所が分からないと住民票はとれない?」

「ええ」

 

「・・・困ります。なにか方法はありませんか?名前は分かります」

相手は分かっている。しかし、それは教えられない。

もどかしいのは伴沢も同じだ。

 

「住宅地図を見ても分かりませんか?」

「家に行ったことがないので・・・」

住所が分からなければ同姓同名の他人の住民票が出る恐れがある。

 

 

 

 

 

 

 

「ご希望に沿えず、申し訳ありません」

しっかり意識しておかないと、口が勝手に「内田」とつぶやいてしまいそうだ。

ぐっとこらえる。

 

「・・・そちらに行ってもいいですか?」

麻沙美はあきらめきれない。

しかし、電話で答えられないものは、窓口に来ても答えられない。

 

「お力になれないかもしれませんが・・・」

なにもできないが、『来るな』とも言えない。

 

では、向かいます。と言って電話は切れた。

 

特に仲が良くも悪くもないが、顔をみたくないタイミングというものもある。

 

 

 

 

(つづく)

 

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