初めての方は第1話①からお読みください
「まったく訳が分からないな・・・」
一応、もらった情報が住基と一致するか確認する。
「内田悠太」で検索。
数秒後。
内田の住基を開いた伴沢は愕然とした。
「内田優子・・・?」
そこには、夫・内田悠太と妻・内田優子、そして子供2人の住民票が表示されていた。
伴沢が混乱していると、後ろから美香の声がした。
「マサコさんの旦那さん?」
内田優子は伴沢の同期。4月に住民課から農業推進課に異動していた。
フリガナは『マサコ』になっている。この名前をマサコと読むのだから間違いなさそうだ。
「そうだな、結婚していたのに別の女性と婚姻届を出したってことだ」
「ヒドイ・・・」
優子は小柄でかわいらしい外見の割にサバサバした性格で、伴沢とは気が合いよく雑談していた。
優子の方も伴沢には気を許していたのか、旦那の愚痴はよく聞いていた。
一番よく聞いていたのが、
『旦那が仕事に行っているのか合コンに行っているのかよくわからない』
優子の旦那は消防士。変則勤務でよく家を空ける。
優子は正規職員として働きながら2人の子供を育てていて、旦那のことには構っていられない。旦那が仕事だと思っていたら夜遅くに酔って帰ってくることがよくあるみたいだった。
・・・ふたりの馴れ初めも合コンなんだが・・・。
結婚した時は旦那の自慢ばかりだった。
イケメンで背は高く、筋肉質。
ただ、合コン好きは結婚後も変わらなかった。
自慢はやがて愚痴に変わる。
そうしているうちに産休2度。
2度目の産休明け後に住民課で一緒になる。
優子の口ぐせは『私もトキメキた~い』だった。
「係長、優子さんに伝えるんですか?」
「ちょっと待て。」
しばらく考え込む伴沢。
ただならぬ様子に丸井が気が付く。
「係長?」
その声に反応して伴沢は住基を閉じた。
「美香さん、この件は絶対にしゃべっちゃダメだ。いいね?」
「・・・わかりました」
「内田さんにも、課内もダメだ。今のは見なかったことにしてくれ。丸井さんも、この話題にはこれ以上触れいないで。何か聞かれても、『わかりません』って言ってくれ」
うなずく丸井。
・・・状況的には婚姻届を回収した男は内田悠太だ。
しかし、確証はない。
もちろん、住民課に捜査権はない。仕事上、調査する大義も薄れている。
ただ、麻沙美のことを考えると調べずにはいられなかった、というのが本心だ。
結果は・・・とにかくヤバすぎる。
「これ以上は、無理か・・・」
伴沢はもどかしさでいっぱいだった。
麻沙美は動いていた。
「相手の名前と住所は分かりますか?」
弁護士が尋ねる。
「内田悠太だと思います。住所は・・・分かりません」
「その名前に間違いはありませんか?」
「・・・?」
「もし、詐欺師だとすると偽名かもしれません」
「あ・・・」
麻沙美の頭には相手が偽名を使っているかもしれないということに気が付いていなかった。そう指摘されると増々怒りが沸いてくる。
「家にいったことは?」
「ありません・・・」
「いつも車は彼が?」
「・・・そうです」
「ナンバーは覚えていますか?」
「・・・いつも車が違っていて・・・」
「車が違う?レンタカーですか?」
「カーシェアと言っていました・・・」
弁護士の話では、まずは内容証明で返金を請求する。
まずは相手を特定しましょう、と。
弁護士に依頼すると調査費が高くなりそうなので、まずは自力で調べることにした。
麻沙美は覚悟を決めた。
私を幸せの絶頂からどん底に突き落とした男が許せない。
しかし、
まずは相手を特定したいが・・・。
・・・名前は分かるが住所が分からない。偽名かもしれない・・・。
・・・住所のことは住民課に相談するしかなさそうだ。
(つづく)
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