初めての方は第1話①からお読みください
「実は・・・、彼と連絡が取れないんです」
「え?」
伴沢は絶句した。どんな罵声を浴びせられるかと覚悟してダイヤルしたのだが。
「電話にも出ないし、LINEの既読もつかないんです」
「・・・いつからですか?」
「・・・婚姻届を出したあとからずっと連絡が取れないんです」
幸福の絶頂から叩き落されたのだろう。情緒不安定になるのも無理はないな。伴沢は心から同情した。
もしかしたらスマホを落とした・・・?
落としたとしても、会って話せばいいだけだ。
嫌な予感。
電話口から嗚咽が漏れる。
罵声とはまた違う、聞くに堪えない嗚咽。
伴沢の用事は済んでいるのだが・・・、言葉を発することもできず、電話を切ることもできず、ただ、聞くに堪えない嗚咽を聞くしかなかった。
しばらく、沈黙。
気が付くと、美香と丸井が心配そうに伴沢を見ていた。
指で〇を作って『ダイジョウブ』の合図を送る。
全く根拠のないダイジョウブだが。
「来週、結婚式だったんです・・・。どうすれば・・・?」
市役所が答える内容の質問ではないが・・・
「・・・残念ですが、キャンセルするしかないのでは・・・」
申し訳なさそうに返事。
「・・・元々、予約はしてなかったみたいなんです。さっき、式場に電話して知りました・・・。」
結婚式を挙げる予定なのに予約はしていない?
混乱する伴沢。
「どういうことですか?」
「騙されたのかな・・・、私」
荒木麻沙美が絞り出すような声で言う。
式場には二人で下見に行っただけで、その後のやりとりは彼に任せきりだったと言う。
彼女はその間、海外で仕事をしていたようだ。
結婚費用も彼の口座に振り込んでしまったと言う。
騙された・・・だと?
「すみません。力になることが出来ず・・・」
夜間窓口が詐欺師に利用されたのかもしれない・・・そう思うと吐き気を感じる。
しかし、麻沙美はもっとショックを受けているだろう。
「こちらこそ、怒鳴ったりしてすみませんでした」
「謝ることではないですよ。もし、些細なことでも気になることがあったら遠慮なく言ってください。できる限りのことはしますので」
伴沢は精いっぱいの慰めの言葉をかけるほか、なすすべがない。
「係長、また余分なことを言ったんですか?もうこの件は一件落着ですよ」
サイテー男がサイテーな言葉を発する。
とにかく気分が悪い。
「小澤。とにかく再発防止のためにマニュアル見直しとけよ。返却禁止だからな!」
普段は感情的にならないようにしている伴沢でも、とにかくイライラしてしまう。
「忙しいから無理っス。ほかの暇そうな人に頼んでください」
若くて賢くても、態度がここまで悪いと一生ヒラ職員だな・・・。
一方の、女性職員の反応はマチマチだ。
美香は、結婚式の段取りまで男にやらせるのは理解できない、と言い、丸井は、「ありえない!ありえない!!」とめずらしくキレ気味に怒っている。
特に、真面目である故なのか、丸井の怒り方は半端じゃなかった。
一方の伴沢は・・・
「八木さん」
宿直室。
八木は長い夜勤の準備の最中だった。
「伴沢さん、どうした?」
「防犯カメラ、見せてください」
「・・・例の日の件か?」
「そうです、提出したときと回収したときの画像が見たい」
「わかった、ちょっと準備するから待ってくれ・・・」
(つづく)
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