初めての方は第1話①からお読みください
翌朝。
伴沢は美香から教えてもらった内田悠太の番号にかけた。
内田悠太に接触するのは心配もある。
もし、婚姻届を回収した本人でなかったら・・・。
状況的には彼が犯人に間違いなさそうだが・・・確証はない。
「・・・出ないな」
仕事中なのか、それとも知らない番号は出ない主義なのか。
それから何度もかけたが、繋がらない。
「私が連絡とりましょうか?」
様子を見ていた美香が察したようだ。
これ以上、美香に負担をかけられないと思っていたが・・・ここは頼むしかなさそうだ。
「美香さん、もし連絡が取れたら、ここではなくてどこか別の場所に呼び出してくれないかな」
・・・果たして3年以上も前に合コンで知り合った女性とまた連絡を取り合うのだろうか?
そう考えている間に
『内田さん、久しぶりです』
とLINEを送る。
「とりあえず、送りました。呼び出して本題は会ってからですね」
「そうだな、返事があったらすぐに教えて」
「分かりました。でも、優子さんの旦那さんにLINEするのなんか変な感じ・・・」
ま、分からないでもない。
夕方。
結局、この日は既読にもならなかったようだ。
美香から報告はない。
ロビーは誰もいない。
この時期は閑散期だが、かといって閉庁時間前に来庁者がいなくなることは珍しい。
「今日は特に残業の予定もないし、定時にさっさと帰ろうかな」
・・・ところが。
「伴沢係長!」
小澤の声。嫌な予感。
「係長、警察の方が今から来ると言ってます」
「何の用事?」
「さー?」
『さー?』じゃないだろ?聞けよ、用件ぐらい。
「僕は忙しいので帰ります。あとはお願いします」
「忙しいんなら残業だな」
「忙しいのはプライベートです、おっと、プライベートを聞くのはパワハラですよ、係長」
「そうやって、仕事を上司に押し付けるのはパワハラじゃないのか?」
「上司を信頼してのことです」
よく言うような、いけしゃあしゃあと・・・。
「まあ、いいや、やる気のないヤツに仕事を任せるほど優しくないんでね。能力があってもやる気のないヤツは、能力がなくてもコツコツ仕事をするやつにいずれ負けるんだよ」
「どういうことですか?」
「『うさぎとかめ』知ってるだろ?」
小澤はぽかんと口をあける。
そしてチャイム。
「時間になったので帰ります。お疲れ様でした」
「わかったよ。小澤の目の前の電話が鳴ったということは、君の仕事に間違いないからな。しっかり用件を聞いてしっかり仕事を残しておくからな。相手が警察だと面倒な仕事かも知れないな・・・」
この言葉にぴくっと動いた小澤は
「残ります」
程なくして異様な雰囲気の二人の男性がやってきた。一人は作業着姿。胸には「アルプス商事」の文字。
そしてもう一人はがっちりした強面の男。目つきが異様に鋭い。
伴沢はこの2人が警察だと気が付く。
作業着はカモフラージュだ。パリピ風のロン毛警察官も見たことがある。
警察もいろいろ大変だな、と思う。
そしてもう一人は・・・警察かヤ〇ザの2択。
「伴沢さんはいますか」作業着の男が言う。
小澤は自分ではなく伴沢を訪ねるように伝えていたのだろう。
つくづく腐った野郎である。
「私ですが」
「大和田警察の者です」
と、さっと手帳を見せる。そしてすぐにしまう。
「・・・失礼ですが、もう一度見せてもらえませんか?」
「ああ、・・・わかりました」
伴沢はじっくり警察手帳を見て、「大和田警察署の宮田さんですね。お連れの方は?」
「山口です」
強面の男はドスが効いた声で名乗る。日ごろから命を張って仕事をしている人は違うな、と感心する。
・・・小澤は少しビビっているようだ。
「こんな時間帯にすいません。」
「気にしなくて結構ですよ。警察の方もお忙しいでしょう」
実は警察官が閉庁後に来ることは稀である。
身分照会をするにしても、緊急で行うことはまずないらしい。
・・・これ以上は警察の内部事情、聞いても教えてくれないだろう。
「手短にしますので」
「で、どんなご用事で?」
「内田悠太のことでちょっと聞きたいんですが・・・」
(つづく)
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