むらた部長CEOの「おはよう諸君!」~投資とマネジメント~ 

ヘッドハンティングされた元公務員による投資とマネジメント

第2話 天赦日(てんしゃにち)に消えた婚姻届⑨「警察」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

 初めての方は第1話①からお読みください

 

 

 「係長、ちょっと」

美香が険しい顔をしている。

「どうしても伝えたいことがあって・・・」

周りに人がいては話しにくい、ということだろう。

 

ちょっと探しもの、と言って倉庫に移動した。

 

 

 

ヒマな職員は、若い女性職員と倉庫に行くだけで「変なことしちゃだめですよ」などと言っているが、実際に不倫現場として使っていても不思議ではないほど人の出入りのない倉庫である。

ここには滅多にお目にかからない昔の文書が保管してある。手に取っただけでかゆくなりそうなレベルの古さである。神経質な人は手袋をしてからページをめくる。

 

「実は・・・内田悠太の名前に見覚えがあって・・・」

見覚え?どういうこと?

 「なかなか思い出せなかったんですけど、さっき思い出したんです!合コンで一緒だったって」

「マジ?」

「市役所に入る前に消防士と合コンしたんです、その時にいました。」

奇遇だな・・・奇遇すぎる。

「まさか優子さんの旦那さんっていままで気が付かなくて」

そりゃそうだろう。入庁前と言えば3年以上は経っている。

「しつこく連絡先聞かれて、教えたらLINEがすごかったんですけど・・・」

「それは大変だったね・・・てことは、連絡先分かるの?」

うなずく美香。

「よく思い出してくれた、ありがとう美香さん」

すぐにメモる伴沢。

 

「変なうわさにならないようにすぐに戻らねば」

・・・倉庫に二人で行っただけでウワサになる役所って・・・。

 

 

 

 

戻るとすでに麻沙美は来ていた。ロビーで待っていた。

「荒木さん」

 

スマホを操作していた麻沙美は伴沢の声に反応する。

「すいません」

「こちらこそ、おまたせしました」

「住所のことなんですが・・・」

伴沢は丁寧に説明するしかないと腹をくくっていた。何時間になっても仕方がない。それが仕事だ。

 

伴沢とて、説明すれば全市民が納得するとは思っていない。希望に沿えなければ悪態をつく者、大声を出す者、さまざまだ。

ただ、それを一括りにクレーマーとレッテル貼りするのもおかしいと思っている。

なんとか最後にwinーwinにできないか・・・。

 

もちろん、今回も丁寧に説明した。

麻沙美は納得できない様子。目的が果たせずあきらめきれないのはコトの重大さからは仕方がないか・・・。

「荒木さん、他に相手を特定できそうなものはありませんか?車のナンバーとか・・・」

麻沙美は首を振る。

「では、銀行口座は?お金を振込んだと言ってましたよね」

「・・・ええ」

「個人で銀行に掛け合っても個人情報を理由に取り合ってくれないかもしれませんが、口座が分かれば弁護士か警察ならなんとか・・・」

「弁護士か、警察ですか」

「かなり大変だと思います。弁護士に頼めば経済的負担が掛かりますし、警察となれば根堀葉堀かなり細かいところまで事情聴取されるかと」

「ちょっと考えます」

 

 

 

 

伴沢が示唆してしまったが、警察沙汰になる可能性が高くなってしまった。

こちらから泣き寝入りを迫ることもできないし、そもそも彼女は被害者だ。

 

「伴沢係長、まだやってるんですか?」

小澤の声だ。小澤のような性格がうらやましくなる。悩みなんかないんだろうな・・・。

「さっき来てたの、例の女の人っっすよね。電話したばっかりなのに」

「小澤も電話したのか?」

「かかってきたっス。係長出せって言ったけど、係長は誰かと話してたから、あとでまたかけてと言っておいたっス」

こちらからかけ直す、が普通だろ!と言いたいところだが、言ったところでコイツは変わらない。

「他になにかかわったところは?」

「とにかくしつこいから、もう電話には出たくないっス」

「・・・ああ、わかったよ」

コイツと話していると、常識がどこにあるのか分からなくなる。どう考えてもおかしそうなことをドヤ顔で言うからなのか?

 

 

 

 

 

夜。

伴沢は一人で悩んでいた。

警察が動くことになればマスコミに流れる可能性が高い。

かといって、江口には頼りにくい。

本来なら上司に報告する案件なのだが・・・江口が動くとろくなことにはならないだろう。

相談できる相手は事実を知っている美香と小澤ぐらいだが、小澤はまったく頼りにならないだろう。美香に頼るのも酷な気がする。

 

「なおきー、なおきってばー」

誰かが呼んでる?

「やっと気が付いた。何悩んでるの?」

妻の華子。元々、地元のFM局でアナウンサー兼事務をしていたが、伴沢と結婚すると同時にFM局を退社。今ではフリーでたまにFMに出演している。

「あ、うん、なんでもない」

「なんでもないわけないでしょ?何回呼んでも返事しないんだから」

「あ、ごめんな・・・」

さすがに華子にも言えない。

「あー、そーですか、今回も守秘義務なんでしょ?たまには奥さんに悩みを聞いてもらいなさいよー?」

言えたら少しは楽なんだけどな。

「わたし、こーみえて口が堅いでしょ?絶対秘密厳守だから、ね?」

「なんでそんなに聞きたいの?」

手に持っているビールをグイっと飲む。

「いつもクールな直稀君が、すごーく悩んでそうだから」

「そんなんじゃないよ」

悪いけど言えないんだ・・・許せ華子。

 

「もー、きらーい。もっと奥さんに頼ってよ」

「じゃあ・・・」

華子の顔がぱっと明るくなる

 

「もし、オレが、華子と結婚してる最中に、他の女の子と婚姻届出したら・・・どう思う?」

「なにそれ!?」

すこし考え込む華子。

 

「うーん、ま、そうなったら直稀を刺し殺すか、相手を刺し殺すか、どっちかだね」

 

・・・言うんじゃなかったな。

 

 

 

(つづく)

 

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