むらた課長のマネジメント実践塾&公務員ドラマ「伴沢直稀」

40代でヘッドハンティングされた元公務員が、異色のキャリアでマネジメントを語ります。ライトノベルにも挑戦!

第1話 Gカップ職員と毎日住民票を取りに来る青年⑦「清楚系女子」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

 初めての方は第1話①からお読みください

 

江口は焦っていた。

昨日のスナックで、現場のことをわかっていないことが市長と元議長に露呈してしまったからだ。窓口のトラブルのことも、元議長の孫のことも部下に任せきり・・・いや、丸投げだった。

 

このままでは俺に対する市長の印象はサイアクだ。

名誉挽回のチャンスは美香とスナックのママの息子を引き合わせること。

そのことしか今は考えられない。

「市長案件」だから。

 

 

 

伴沢は不思議がっていた。

昨日、市長室から帰ってきた江口は上機嫌だったはず。

それが今朝はいきなり、「市長案件」だといって美香にプライベートで来庁者と会うことを強要する・・・。

 

「ま、やれることをやるしかないな」

美香は課長に言われたからと言って、プライベートで興味のない男に会うほど間の抜けたことは絶対しないだろう。

 

その時、内線が鳴る

「住民課、伴沢です。」

「伴沢か、上野だ。わりい、もっと効率的な方法を思いついた。」

「なんだって?」

「税務課で聞いてみろよ。屋号ならわかるんじゃないか。」

「そんなの教えてくれるのか?最近、個人情報は厳しいだろ?」

税情報は住民課の情報よりも管理が厳しいはずだが・・・。

「『市長案件』なんだろ?田中になんとかしてもらえよ」

田中は同期で、税務課課税係長をしている。

「田中?石橋を叩いて叩き割るほど慎重な奴だぞ。教えてくれるか?」

「なんならこっちからも連絡しておく。まぁ、同期の絆ってやつだな」

同期の絆とやらで情報が得られればいいが・・・。

「ま、聞くだけ聞いてみる」

「すまんな」

 

 

 

 

 

 

「係長、大丈夫ですか?」

丸井が声をかけてきた。彼女も心配のようだ。

「ま、なんとかならなかったことは過去に一度もないから、なんとかなるだろ」

「私のせいで、すみません・・・。」

 

「気晴らしに飲みにでも行かないか?」

「・・・すみません、彼が『男の人と飲みに行っちゃいけない』って・・・」

やっぱり、真面目なんだな。

「じゃあ、現地調査なら行くか?行先は例のオバちゃんの店だけど」

「それなら行きます!ちゃんと謝ります」

つくづく、真面目なんだな。

 

「では、下調べに税務課にいくぞ」

「はい!」

 

 

「伴沢、なんだよ『市長案件』って」

顔を見るなり田中は話かけてきた。

「話が早いな、田中。悪いけど店の屋号と場所を教えて欲しいんだけど」

「カンタンに言うなよ。個人情報なんだから」

「しょうがないだろ、『市長案件』なんだから」

「『市長案件』ねぇ・・・。それはそうと、となりの子は新人さん?」

田中は仕事では堅物だが、実はアイドル好き。週末は地下アイドルに会いに行くのが趣味のアラフォー男子。もちろん独身。

「田中係長、お願いします」

伴沢が丸井を連れて行った狙いはここにあった。田中は清楚系女子にめっぽう弱い。

「新人さんに頼まれたのなら仕方ないな~」

「ありがとうございます!」

元議長の孫ということは知らないのか・・・?

 

 

田中はあっさり教えてくれた。

「繁華街から一本入ったところの雑居ビルだ。行けばすぐわかる。『スナック容子』」

「そのまんまだな。」

「ここは市長が若いころから通っている店だ」

「そうなのか?」

「実は一度調査に行ったことがある、当時の税務課長が教えてくれたんだ。その時、市長は部長だったけどな・・・。この店のママさんはけっこう美人だったな」

「調査?」

「調査という名の、単に飲みに行っただけだ」

「田中係長、おもしろーい」

丸井の絶妙な合いの手で調子に乗る田中。

「結婚するとかしないとかいう仲だったらしい。『市長案件』と言えば、そうだな」

「他には?」

「市の幹部や議員に常連が多いらしい。ほら、元議長の丸井先生とか・・・」

「おじいちゃん???」

「しーっ」焦る伴沢。

「もしかして、丸井先生のお孫さん?市役所の中にいると聞いたことはあったけど・・・」

「あー、そーかもしれない」

「なんだよ、早く言えよ。丸井先生の孫がこんなにカワイイなんて聞いてないぞ」

なんで教えなきゃいけないんだよ。

「手ぇ出すなよ」

「出せる訳ないだろ?危うく連絡先聞くところだった」

「彼氏がいるので困ります!」

「・・・。」

 

 

 

「伴沢君、そろそろ連絡はついたかね?」

税務課から戻ると、待ってましたとばかりに江口が聞いてきた。

「シバヤマさんとは連絡がつきました」

「おお、美香さんは会ってくれそうかね?」

伴沢は大きくため息をついた。

 

「断る方向です」

 

 

「なんだって!?」江口の顔が一気に強張る。

「それじゃ、困るんだよ」

江口の一言に思わず首を捻る伴沢。

「誰が困るんですか?」

 誰が困る・・・?困るは俺だ。なんとしても会ってもらわねば。

 

「何を言ってるんだ!さっき『市長案件』って言っただろう!」

伴沢は江口の慌てぶりが可笑しく感じてきた。

「・・・つまり、困るのは江口課長、あなたってことですか?」

「・・・え?」

 

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(つづく)

 

 

 

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