むらた課長のマネジメント実践塾&公務員ドラマ「伴沢直稀」

40代でヘッドハンティングされた元公務員が、異色のキャリアでマネジメントを語ります。ライトノベルにも挑戦!

第1話 Gカップ職員と毎日住民票を取りに来る青年⑥「当たり前のこと」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

 初めての方は第1話①からお読みください

 

 

「係長、たいへんなことになってるみたいですね。」

市川が伴沢に声をかける。心なしか楽しげだ。

(あんたが発端だろ)伴沢はイラつく。

「美香さん、怒って帰っちゃいましたね。」

 

あのあと、

「係長!わたし、帰ります!」と美香はすぐに帰ってしまったのだ。

 

「ま、無理もないかな。」

「何があったんですか?」

「市川さん、あなたたちが勝手にケーキ食べるからですよ」

伴沢はイライラ抑えながらゆっくりと話す。

「えー、どうせ捨てちゃうからもったいないと思っただけですよ」市川は笑いながら答えた。まったく罪の意識はなさそうだ。

「・・・あなたのやったことは、『おうりょう』です」

 

「おうりょう?」

「横領ですよ、あのケーキは市川さんのものではありませんよね。預かっただけだと」

「どーせ捨てるんですよ、いけませんか?」

市川の顔が一気に曇る

「あれは美香さんに渡す約束でもらったんですよね。勝手に横取りしたから横領です。犯罪ですよ」

「でも、どーせ腐るし・・・」

「だいたい、市役所の窓口で来庁者からモノをもらっていいと思っているんですか!?今回のトラブルの発端はあなたです!」

「・・・他の人も食べましたよ。丸井さんとか・・・」

「新人に罪を擦り付けるんですか?」

「・・・」

「丸井さんは謝罪しましたよ。あなたも謝罪してください!」

「・・・パワハラですか?これは」

 

伴沢はあきれ返る。本気で言っているのか?

「市川さん、これは『市長案件』です。さっき聞こえましたよね?」

「・・・」

「おそらく、ケーキの件も市長まで知られています。それでもまだ謝罪する気がないなら、覚悟しておいてください。」

 

 

 

 

 

 

今日中にシバヤマシュウキチに電話をしなければならないが、美香は帰ってしまった。

「・・・オレが電話するしかないか・・・」

ま、本人がいたとしても本人に電話をさせる選択肢はない、伴沢は思っていた。

 

おなじみの「プルルル・・・」ではなく、千本桜が流れる・・・。

(着うたか・・・)

なかなか出ない。聞く予定になかった千本桜がむなしく聞こえる。

 

しばらくすると、さっきかけた番号から着信が!

「大和田市住民課の伴沢です。」

「・・・。」

無言。男の声にびっくりしたような無言。

「シバヤマさんですよね?」

「・・・はい。」

伴沢は返事にホッとした。このまま無言で切られるのではないかと。

 

「係長さんですよね。先日はお世話になりました。」

お世話に?

なぜ自分のことを?

「父が亡くなったとき、とても親切にしていただきました。」

 

 

2か月前、シバヤマの父親が亡くなった。

その時、死亡の手続きや相続に必要な書類を丁寧に説明したのが美香と伴沢だった、と言う。 

そう言われて、2か月程前に相続絡みの相談があったことを思い出した。

たしか、父親に多額の借金があって困っていた様子だったが、弁護士に頼む費用も用意できないというので、相続放棄の説明を簡単にして裁判所に出向くように指示した、ような気がする。 

 

当時とあまりに印象が違いすぎる。失礼かもしれないが、その時はチンピラという表現がピッタリの服装だった。実際に証明書を発行したのは別の職員で、伴沢は名前も知らなかったのだ。

 

その時に一緒に対応したのが美香。

彼女は当たり前のことをしたに過ぎないが・・・。

 

「どうしても鈴木さんに会ってお礼がしたいのです」

「職員として当然のことをしたまでですよ」

「それでも・・・」

 

「本当にそれだけですか?シバヤマさん」

「・・・。」

「一応、鈴木には伝えますが、ご意向に沿えないこともあると思ってください。」

「・・・わかりました」

「それから、実は先週の金曜日、鈴木は休みだったのです。やむを得ずケーキは処分しました」

「え、そうだったんですね・・・」

「(処分といっても別の職員が食べたんだけどな・・・)差し入れなどはお断りしてますので・・・」

「・・・ご迷惑をかけてすみません」

シュウキチ、いいやつだな。

 

「それから」

「・・・はい」

「シバヤマさんのお母様と市長はなにか関係があるんですか?」

「母の店の常連です」

「え、マジ?」意外な回答に敬語を忘れる。

 

「マジです。母が『小野ちゃん』と呼んでいます。『小野ちゃんが市長になっちゃった~』って騒いでいたので間違いないです」

「どんなお店ですか?」

「スナックです」

「市長はよくお母様のお店に行くんですか?」

「以前はよく来ていたみたいですが、最近のことはわかりません」

 

 

 

 プルル、プルル

「秘書課、上野でございます。」

「おい、上野。この前のド派手なオバちゃんの店の常連らしいぞ、市長」

「なんだよ伴沢か。そんな用事で電話するなよ。こっちは忙しいんだから」

「うちの課長が言うにはそのオバちゃんの息子は『市長案件』だぞ!『市長案件』なんだから秘書課も協力するように」

「わかったよ。で、何をすればいい」

「そのオバちゃんの店が知りたい」

「知ってどうする?」

「謝罪。その息子にうちの鈴木を会わせろっていうんだけど、それは拒否反応しちゃってるから無理なんだよ」

「美香チャン、モテモテだな」

「上野まで『美香チャン』って呼ぶのか。気持ち悪いな」

「別に本人が聞いてるわけじゃないからいいだろ。ただ、悪いが伴沢。市長のプライベートはよく知らないんだ」

「夜の付き合いも市長秘書の仕事じゃないのか?」

「それは前の市長までの話。今の市長は職員にプライベートまで付き合わせないようにしてくれてる」

「なんとか探ってくれないか?」

「美香チャンのためならやってやってもいいかな」

「とことん気持ち悪いヤツだな」

 

(つづく)

 

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