むらた課長のマネジメント実践塾&公務員ドラマ「伴沢直稀」

40代でヘッドハンティングされた元公務員が、異色のキャリアでマネジメントを語ります。ライトノベルにも挑戦!

第1話 Gカップ職員と毎日住民票を取りに来る青年③「腐るケーキ」【公務員ドラマ 伴沢直稀~俺たち就職氷河期入庁組~】

初めての方は第一話①からお読みください

 

すると丸井が

「係長、すいません。実は・・・」

 

その時、内線が鳴る

「住民課、 伴沢です。」

「伴沢?上野だけど」

秘書課の上野。伴沢の同期。すでに課長補佐である。

30歳の時に総務省に出向し、2年後に戻って来て財政第一係長、そして市長の秘書をしている。将来の部長候補である。

 

もう秘書課から電話か、早いな。

「客をこっちに寄こすなって言ってるだろ?」

「勝手に行くんだから仕方ないだろ」

「ド派手なオバちゃんが来たと思ったら大声で『市長呼べ』って騒ぎだして。ヤバそうだったけどたまたま市長が戻ってきて『あら、市長さん、お元気?』だって」

「どういうこと?」

「どうやら知り合いらしい。市長が『また行くからよろしく』って言ったら、そのオバちゃんは急に機嫌が良くなって、『また来てね~。早く来てよ~』なんて言いながら帰っていったぞ」

「そっちでは大したトラブルじゃなかったってことか」

「まあな。ただ、知り合いってことは、これでコトが済んだのかどうか分からない。とにかく、市長が課長呼べって言っているから、江口課長に連絡するように言ってくれ」

ちょっと厄介そうだ。

「分かった。課長には伝える」

 

すでに丸井は泣きそうである。

丸井は新卒1年目。社会人経験はない。昨年から取り入れられた筆記試験のない「一芸採用試験」で入庁したのだが、特に一芸をアピールしたというわけではないらしい。

元議長の孫ということであり、コネではないかというウワサである。しかし、真面目でいつも笑顔を絶やさないため、憎めないキャラクターで周りの職員からの評価は悪くない。

ただ、ちょっと社会常識に欠けるところがあり、「『条例』と『条約』の違いって何ですか?」と真顔で聞いてきたことがあった。

 

「先週の金曜日なんですけど、いつも美香さんのところにきていた男の人が来て」

「え?」

「私と市川さんで対応したんですけど」

「それは聞いてなかったな・・・。」

「市川さんたちが、『係長には内緒に』って・・・。」

丸井の目に涙が溜まりだした。

 

前任者から聞いてはいたが、ここのベテランメンバーは平気で隠し事をしたり、ウソをついたりする。何度やられたことか・・・。

しかし、新人の丸井は例外。ミスもきちんと報告する。ここで「なんでそんな重要なことを報告しないんだ!」と怒鳴ってしまうと、本当に重要な報告が上がってこなくなる。

 

ー先週の金曜ー

例の男は5日連続でやってきていた。伴沢は会議と昼休憩でしばらく席を外していた。

昨日までと違うのは、大きめの紙袋を持っていた。

この辺りでは有名なケーキ屋のもの。

 

すぐに市川をはじめとする嘱託軍団は気が付く。

(今日も来てますね。美香さんいないのにね。)

しばらくロビーの隅でキョロキョロしていたが、いつまでたっても美香が現れないのでカウンターに近づき、たまたま近くにいた丸井に声をかける。

「鈴木さんは・・・?」

小さな声だったがなんとか聞き取れた。

「鈴木は3人いますけど」(美香さん目当てですよね?)

「あの・・・えーと、胸が大きい鈴木さん。」さらに小さい声で。

「(やっぱり美香さん!)鈴木は不在にしています。」

ここのルールは『来庁者に対して職員が休んでいることを教えない』であった。その昔、『休んでいる』と伝えて大クレームに発展したことが発端らしい。

が、これが誤解を生む。

 

「いつ戻るんですか?」

「え・・・、ちょ、ちょっと私にはわからないので・・・」

「戻るまで待ちます」

 

丸井はすっかり困ってしまった。「しょ、少々おまちください」

そのやりとりを見ていた市川(おせっかい好き)が、

「どんなご用件でしたか?」

「渡したいものがあって・・・。」

美香にケーキを渡そうとしていると気が付く市川と丸井。

 

「鈴木に渡しましょうか?」

市川の言葉に驚く丸井。(市川さん、どうするんですか?)

「じゃ、お願いします」

若い男からケーキを預かる市川。

(そんなの預かって大丈夫なんですか?)小声で聞く丸井

「じゃ、渡しておきますね~」

 

中にはケーキと一枚の手紙。

「あら、あの方はシバヤマヒデヨシとおっしゃるのね」

「市川さん、やっぱり良くないと思うんですけど・・・」

「丸井ちゃん、いい?どーせケーキは日持ちがしないから、私たちがおいしく食べてあげたらいいと思わない?」

他の嘱託軍団も「そーよねぇ」と口々に言う。

新人には反論できる雰囲気ではない。

「この手紙は私が美香さんに・・・」

「あら、美香さんは連絡先をもらっても『またもらっちゃった』っていいながら、いつもシュレッダーにかけてるの。だから、今回もシュレッダー行きでいいんじゃない?」

他の嘱託軍団も「そーよねぇ」と口々に言う。

 

 

 

「で、食べちゃったんだ、ケーキ」

「・・・すいません・・・」

もらってはいけないことなど、丸井は分かっている。

ただ、この職場で、嘱託軍団を敵に回して生きていけるほど甘くはないことも。

 

「・・・教えてくれて、ありがとう」

「・・・〇▲×・・・」

ついに丸井は泣き出してしまった。

「手紙はもうないんだね」

うなずく丸井。

「やっちまったものはしょーがない。あとはなんとかするさ」

 

あの男が「秀吉ちゃん」だと気が付けば美魔女への対応も違っていたかもしれない。

伴沢が先週、住民基本台帳を見ていたにも関わらず気が付かなかったのは、フリガナが『シュウキチ』になっていたからだった。

 

(相変わらずポンコツだな、ここは)

 

おっと、課長に市長に呼ばれていることを伝えなければならない。

今の話をすべきか・・・伴沢は悩んでいる。

 

(つづく)

 

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